マニュアル車の発進と停止のコツ
マニュアル車の発進と停止のコツ
普通免許をマニュアル免許で取ろうとしている方が、最初に苦戦するのがこの発進と停止の操作ではないでしょうか。今回はマニュアル車の発進と停止のコツを紹介していきますが、予備知識として「クラッチ」や「トランスミッション」などの知識が必要なのでその辺りがよく分かっていない方は下記の記事を先に読んでおいてください。
実際の操作に入る前に、まずはエンジンの弱点を知ることから始めてみましょう。エンジンには2つの弱点があります。
①エンジンは強い負荷がかかると止まってしまう
②エンジンはゆっくり動かすことができない
エンジンは「吸入・圧縮・爆発燃焼・排気」という4つのサイクルで動いているので、このサイクルが乱れてしまうと途中でエンジンが止まってしまう特徴があります。エンジンが止まってしまうことをエンジンストール(エンスト)と言います。したがって、このサイクルが止まらないようにエンジンは一定の回転数を保たなければなりません。
そのため、車を停めている時にアクセルペダルを踏んでいなくても、エンジンは低回転で回り続けています。この状態を「アイドリング」と言います。そして、エンジンは強い負荷がかかるとすぐに止まってしまうという弱点があります。エンジンはとても大きい部品なのですが、実はとても繊細でちょっとしたことで止まってしまう弱いものだと理解しましょう。
さらに、エンジンはゆっくり動かすことができないという弱点もあります。例えば、走行中、車を止めようとブレーキを踏んでいくと車のスピードが落ちていきます。車のブレーキはタイヤの回転を直接摩擦で止めるような構造になっています。走行している時はエンジンとクラッチ、トランスミッション、タイヤが全て一本に繋がっているため、ブレーキをかけてタイヤの回転を止めようとすると、それにつられるようにしてエンジンの回転数も下がっていきます。
そこから、さらにブレーキをかけていくと、エンジンの回転数もどんどん下がってきて、エンジンがガタガタと震えて最終的にはエンストしてしまいます。このエンジンがガタガタと震える現象を「ノッキング」と言いますが、ノッキングはエンストする直前の症状になります。「エンジンは強い負荷がかかると止まってしまう」「エンジンはゆっくり動かすことができない」という2つの弱点をよく理解しておくと、マニュアル車の発進と停止の操作もどうしてそうなったのかイメージしやすくなります。
それでは、まずは発進の操作から見ていきましょう。発進はチェンジレバーを1速(ローギア)にして、アクセルペダルとクラッチペダルを操作していきます。クラッチペダルを戻す前に最初にアクセルペダルから軽く踏んでエンジンの回転数を少し上げた状態をキープします。なぜ、発進する時にはアクセルペダルを踏む必要があるのか?これはエンストしにくくさせるためです。
先程、エンジンは低回転で回り続けている(アイドリング)と言いました。このアイドリングの状態はとても力が弱くて、このアイドリングの状態のままクラッチを繋いでしまうとエンストしやすいんですね。
では、どの程度アクセルペダルを踏んでエンジンの回転数を上げるのか?これはエンジンの音の変化で見極めるのがポイントです。アクセルペダルを踏んでエンジンの音が少し変わったと思う程度で十分です。
よく運転席のメーター類のタコメーター(回転計)を見てしまう方がいます。タコメーターは、1分間にどれだけエンジンが回転しているかが分かるメーターになっています。メモリが1ならば1分間に1000回転、メモリが2ならば1分間に2000回転という具合になります。
タコメーターは確かにアクセルペダルの踏み具合の目安になるのですが、発進する時のアクセルの量はタコメーターを見ないでエンジンの音で判断するのがおすすめです。なぜかというと、アクセルペダルの次に半クラッチを作っていきますが、半クラッチは車の動きを見て判断するためタコメーターを見ていると車の動きが分からないというデメリットがあるからです。
それから、アクセルペダルはとても軽くて柔らかいので、慣れないうちは軽く踏んで一定に保つのがとても難しいです。アクセルペダルを軽く踏んだつもりが踏み過ぎてしまったり、一定に保とうとしてもエンジンの回転数にムラができてしまったりと思うようにいかないです。最初のうちは素早く発進しようとはせず、ゆっくりと確実に発進できるように意識すると良いです。
今度はクラッチペダルの操作になります。踏んでいるクラッチペダルを戻していくと、クラッチがつながって車が動き出す訳ですが、発進はこのクラッチペダルの戻し方がとても重要です。例えば、クラッチペダルをいきなり一気に戻してしまうとどうなるか?教習車くらいだと重さがだいたい1500kgくらいあるので、その重さが全てエンジンにのしかかってしまってエンストしてしまいます。もし運よく発進出来たとしても急発進となり、ロケットスタート状態になってしまいます。
では、どうしたらエンストさせずにゆっくり発進させることができるのか?クラッチの繋げ方を一気に繋げるのではなく調整することです。これがいわゆる「半クラッチ」というやつですが、クラッチを完全に繋げるのではなく、半分くらいクラッチを繋いだ状態という意味で半クラッチ。実際のクラッチペダル操作でいうと、クラッチペダルを全部戻さず途中で止めて、車にしっかりと勢いが付いたらクラッチペダルを完全に戻すという操作になります。
そして、その半クラッチの位置をどうやって掴むのか?ポイントは3つあります。まずは「目」で車の動きを見ます。半クラッチの状態になると、エンジンの動力がタイヤに伝わって車がゆっくりと動き出していきます。この時に運転席のタコメーター(回転計)を見ていると車が動いているのに気づけないので注意してください。
次は「耳」でエンジン音の変化を聴きます。クラッチの繋がってくると、エンジンに負荷がかかりエンジンの回転数が少し遅くなります。それによって、エンジン音も微妙に変化します。
最後は「体」でエンジンからの振動の変化を感じます。先程の「耳」とほぼ同じですが、エンジンの回転数が遅くなるとエンジンからの振動も少し変化します。クラッチの繋がり具合は直接見ることは出来ないので、「目」と「耳」、「体」でその変化を感じ取ることがコツです。
それから、クラッチペダルのこの半クラッチの位置は、車によってその位置が全然違ってくるのも特徴です。クラッチペダルを戻してすぐ車が動き出すものもあれば。クラッチペダルをほとんど全部戻さないと動き出さないものもあります。最初の発進は特に慎重に行うようにしましょう。
今度は半クラッチにしてからクラッチペダルを完全に戻すタイミングです。「エンジンはゆっくり動かすことができない」という弱点があるので、ある程度のスピードが出るまでは半クラッチの状態を保ち続ける必要があります。そのある程度のスピードというのは、人が小走りした程度になります。小走りした程度のスピードに達しない状態でクラッチを完全に戻してしまうと、急発進してしまったりエンストしてしまったりするので注意してください。
また、半クラッチの状態からクラッチペダルを完全に戻す時のペダルの戻し方も大切です。一気にクラッチペダルを離してしまうと、車体がガクガク揺れてしまったりするので足の力を抜くように静かに戻していくのもポイントです。
最後は停止の仕方になります。エンジンの2つの弱点の部分でも説明しましたが、「エンジンはゆっくり動かすことができない」という特徴があります。なので、停止しようとブレーキをかけていくと、エンジンの回転数もどんどん下がってきて、エンジンがガタガタと震えて(ノッキング)最終的にはエンストしてしまいます。
では、エンストさせないように車を停めるにはどうしたらいいのか?それはクラッチペダルを踏んでクラッチを切ればいいんですね。事前にクラッチを切っておけば、エンストすることなく停止することができます。ここでポイントになってくるのはクラッチペダルを踏むタイミングになります。普通に考えるとエンストするのが怖いので出来る限り早めにクラッチペダルを踏んでおきたいですよね?
停止する時のペダル操作は最初にブレーキペダルを踏んで、スピードが落ちてきてエンジンがガタガタと震えてきた段階でクラッチペダルを踏むのが理想です。なぜクラッチペダルはもっと早い段階で踏んでおかないのか?それは「エンジンブレーキ」が関係しています。
最初には説明しましたが、走行している車はエンジンとクラッチ、トランスミッション、タイヤが全て一本に繋がってします。アクセルペダルを踏めばエンジンの回転数が上がって、それにつられてタイヤの回転も速くなりスピードが上がります。反対にアクセルペダルをゆるめるとエンジンの回転数が下がって、それにつられてタイヤの回転も遅くなりスピードが下がっていきます。このアクセルペダルをゆるめた時にエンジンの回転数が下がることでスピードが落ちていくことを「エンジンブレーキ」と言います。
走行中の車を停止させる時には「ブレーキペダル」と「エンジンブレーキ」の2つのブレーキを使って車を停めていることになるのです。もし、クラッチペダルを早々と踏んでしまうと「ブレーキペダル」だけ車を停止することになるので、ブレーキの効きが悪くなり車がなかなか停まらなくなってしまうのですね。
今回はマニュアル車の発進と停止について説明していきましたが、文章にするだけでもこれだけの量になりとても奥が深くて難しいです。たくさん練習すれば出来るようになるものではなく、マニュアル車はどのような仕組みで発進や停止をしているのかその構造をよく理解しているかいないかが操作の上達具合にとても重要になってきます。そして、この発進操作は「断続クラッチ」や「坂道発進」にも通ずるものなので、是非マスターできるように頑張って練習してみてください。